人生を決算してみると、悩みの正体が変わる
会社は年に一度、決算をします。何を持っていて、何を負っていて、この一年で何が増えたのか。 面白いのは、決算そのものが利益を生むわけではないのに、 数えている会社ほど間違えにくいことです。人生も、たぶん同じ構造をしています。
お金だけを数えると、判断を間違える
家計簿は残高を教えてくれますが、それは人生の資本のごく一部です。 稼ぐ力、健康、人とのつながり、自由に使える時間、そして納得。 これらはどれも数字になりにくいので、家計簿には載りません。
ところが、実際の判断はこの見えない資本のほうで決まります。 転職するかどうか、引き受けるかどうか、休むかどうか。 口座残高だけを見て決めると、いちばん高い代償を払っている資本が見えないまま意思決定することになります。
資本には、増やせるものと増やせないものがある
6つの資本は、性質がまったく違います。この違いを踏まえないと、努力の向け先を間違えます。
- お金の蓄え。減らしても、また積める。回復可能性がもっとも高い資本です。
- 稼ぐ力。使うほど増える珍しい資本。ただし、同じ場所に長くいると増え方が止まります。
- 健康の元手。取り崩しは静かに進み、ある水準を越えると買い戻せません。優先順位は常に最上位です。
- 人のつながり。積むのに時間がかかり、放置すると静かに減ります。必要になってからでは間に合いません。
- 自由に使える時間。唯一、積み立てられない資本。今日使わなかった分は、明日に繰り越せません。
- 納得と手応え。他の5つを何に使うかを決める資本。ここが空欄だと、他が増えても満たされません。
この一覧を見ると、多くの人が力を注いでいるのが、いちばん回復しやすい資本だと分かります。 お金は取り戻せます。健康と時間は取り戻せません。順序として、そこが逆になっていないかを確かめてみてください。
「稼ぐ力」は資産だが、放っておくと目減りする
これから先に働いて得られる収入の合計は、多くの人にとって預金より大きな資産です。 30代であれば、その額は蓄えの何倍にもなります。いちばん大きな資産は、たいてい通帳に載っていません。
そしてこの資産は、勝手には増えません。同じ場所で同じ仕事を続けている間も、 経験は積み上がりますが、外に持ち出せる形になっているかは別の話です。 職務経歴書に書ける言葉になっていないなら、それはまだ資産として計上できていません。
負債の側も、書いておく
決算書には負債の欄があります。人生の負債は、住宅ローンのような分かりやすいものだけではありません。 断れないまま抱えている役割、先延ばしにしている手続き、いつか話さないといけない相手。 どれも金額はゼロですが、利息のように毎日少しずつ気力を持っていきます。
これらは、書き出すだけで軽くなることがあります。頭の中にある限り、脳は忘れないよう保持し続けるからです。 紙に出して、期限を決めるか、手放すかを選ぶ。返済計画のない負債がいちばん重い、というのも会計と同じです。
6つの決算と、次にやること
| 決算 | 起きやすいこと | まずやること |
|---|---|---|
| 総資産・時間不足 | 増え続けるが、使う機会がない | 使う予定を日付から先に押さえる |
| 貯まっているが使い道が空欄 | 増えても満足に変わらない | 使い先を3つ書き出す |
| 稼ぐ力に寄せている | 回復に時間のかかる資本から削れる | 睡眠と、月1回の予定を先に置く |
| 人の資産が厚い | 助けたいときに手段がない | 経験を外に持ち出せる言葉に翻訳する |
| 元手を取り崩している | 我慢で乗り切ろうとしてしまう | 前進より先に、止血する |
| 時間はあるが稼ぐ力が細い | 交換しやすい資本を寝かせてしまう | 週3時間を将来の形になるものに割く |
配分は、時期によって偏っていい
6つすべてを毎年きれいに揃えることを目指すと、かえって窮屈になります。 仕事に振り切る時期があってもいいし、家族や療養のために稼ぐ力を寝かせる時期があってもいい。 見るべきは1年の形ではなく、数年単位で揺り戻しがあるかです。
危ないのは、偏っていることではなく、偏りが固定して戻らなくなることです。 だからこの診断は、一度きりではなく年に一度、同じ時期に測ることをおすすめします。 去年の自分と比べたとき、どの資本が動いたか。それがいちばん多くを教えてくれます。
この記事は本アプリのために書き下ろしたものです。特定の書籍・論文からの引用は含みません。 「人的資本」「金融資本」といった見方は、経済学の分野で広く共有されている一般的な概念として用いています。 お金の個別の判断は有資格の専門家に、心身の不調が続く場合は産業医・かかりつけ医などにご相談ください。