優しさと、自己犠牲を分けるもの
人のために動くことは、関係を豊かにします。ところが同じ行動でも、続けるほど本人が消耗していく形があります。この2つを分けているのは動機ではありません。範囲が決まっているかどうかです。
助けることと、背負うことは違う
相手の作業を手伝うのは、助けること。相手の結果や感情まで自分の責任にするのは、背負うことです。
この2つは行動として似ていますが、終わり方が違います。手伝いには終わりがありますが、背負うことには終わりがありません。相手の状況が改善するまで、こちらの責任が続くことになるからです。
そして、背負う側が消耗するだけでなく、相手の自立を止めることもあります。
断れないのは、意志の問題ではない
「もっと断りましょう」という助言は、ほとんど効きません。断れない人は、断れないなりの理由を持っています。
- 断ったときに、関係が悪くなった経験がある。学習した結果です。
- 断る言い方を、持っていない。技術の問題で、性格ではありません。
- 断ると、代わりに誰かが困ると分かっている。実際そうであることも多い。
- 期待に応えることが、自分の価値になっている。断ると足場が揺れます。
どれも、気合いでは解決しません。断ることではなく、条件を出すことから始めるほうが現実的です。
「できません」ではなく「この条件なら できます」
実務でいちばん使える形です。断る/断らないの二択にしない。
「今週中は難しいですが、来週の水曜なら出せます」「全部は無理ですが、A社の分だけなら今日中にできます」。
この形の利点は、相手に判断材料を渡していることです。断ると相手は困りますが、条件を出されれば選べます。しかも、選んだのは相手なので、結果への責任も共有されます。
3つに仕分ける
領分が混ざっていると感じたら、紙の上で分けるのが確実です。
- 自分の領分。自分の判断と行動で動かせる部分。
- 相手の領分。相手が決めること、相手の感情、相手の結果。
- 誰の領分でもない部分。制度、タイミング、他の人の都合。
3つ目を必ず置くのが要点です。この枠がないと、誰の領分でもないものが自分か相手のどちらかに押し込まれます。
罪悪感は、正しさの証拠ではない
断ったあとに後ろめたさが残る。これは、断ったことが間違っていた証拠のように感じられます。
けれど多くの場合、断ること自体に反応しているだけです。妥当な判断でも、同じ感覚は出ます。
実用的な確認方法があります。断ったあとに、実際に何が起きたかを記録する。多くの場合、想像していたことは起きません。この記録が溜まると、罪悪感の扱い方が変わります。
いちばん危ないのは、やりがいのある場面
嫌々やっている仕事なら、疲れたときに気づきます。問題は、意味を感じている場面です。
介護、子育て、支援の仕事、立ち上げ期のプロジェクト。やりがいは、疲れの信号をかき消します。だから限界の直前まで気づけません。
この場合、感覚では判断できません。先週の平均睡眠時間、休めた日の数。事実で見てください。
7つの型と、次にやること
| 型 | 起きやすいこと | まずやること |
|---|---|---|
| 線が引けている | 周りに同じ線引きを期待してしまう | 人によって難しさが違うと考える |
| 抱えすぎている | 断れないので全部が来る | 「この条件なら」の言い方を1つ用意する |
| 領分が混ざっている | 相手の課題まで背負う | 3つに仕分けて紙に書く |
| 限界に気づけない | 倒れる直前まで走る | 睡眠時間という事実で判断する |
| 一人で抱える | 支援が届かない | 愚痴の形で1つ話す |
| 罪悪感が線を消す | 断れるが、あとが苦しい | 断った後に何が起きたか記録する |
| 線を引き直している途中 | 言い方が用意されていない | 断り方と頼み方を文章にする |
相談したほうがよい場合
最後に、大事なことを書いておきます。
断ることや、自分の希望を言うことに恐怖を感じる場合。相手から行動を強制されている場合。これらは境界線の引き方の問題ではありません。
配偶者暴力相談支援センター、労働局の総合労働相談コーナー、お住まいの自治体の相談窓口など、専門の窓口があります。一人で判断せず、相談してください。
また、気分の落ち込みや不眠が続いている場合も、考え方の工夫で解こうとせず、産業医やかかりつけ医にご相談ください。
この記事は本アプリのために書き下ろしたものです。特定の書籍・論文からの引用は含みません。「境界線」という見方は、対人関係の分野で広く共有されている一般的な概念として用いています。相手から恐怖を感じる、行動を強制されているといった場合は、専門の相談窓口にご相談ください。